気候変動や漁業資源の乱獲、汚染などで、世界の海は危機的な状況に置かれています。海洋経済の発展のためには、海洋資源の持続可能な利用を成し遂げ、地球全体の視点から海を考えることが必要です。

海洋の持続可能な利用と管理は、人類の未来にとって欠かすことができません。人口増加により、食料やエネルギー、医薬品、鉱物資源、運輸などの面で、世界は海洋資源をますます必要とし、海の利用は増大します。こうした状況をふまえ、ノルウェー政府は世界の海洋問題に取り組むうえで主導的役割を務めていくという姿勢を明確に示してきました。海を熟知し、海への造詣が深いノルウェーの専門知識が世界で求められています。
2017年、ノルウェー政府は白書をストーティング(ノルウェー国会)に提出し、外交・開発政策における海洋の位置づけを明確にしました。この白書では、持続可能な利用と価値の創出、汚染のない健全な海、海洋資源の持続可能な利用による「ブルーエコノミー」の3つを開発政策の優先分野にあげています。
健全な地球環境、持続可能な資源の利用、経済成長の3つが互いにどう関係しているのか、この理解を促すために、ノルウェーの経験と専門知識が生かされます。ノルウェーが地球規模で海洋に関する取り組みを進めていくために、今後数年間で特に重要性が高いプロジェクトとして次の3つがあげられます:
持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル
2018年1月、アーナ・ソールバルグ首相は持続可能な海洋経済に関する国際的ハイレベル・パネル設立計画に着手しました。首相が主導する本パネルは、多数の海洋国家の首脳で構成されます。本パネルは、海洋の持続可能な開発と健全な地球環境が経済的に多大な価値をもたらすことについて、世界の理解を促進することを目的としています。この先、汚染のない健全な海は、世界の人々の暮らしに欠かせないエネルギーや食料などを提供する供給源のひとつになるでしょう。
世界の海、海洋経済は国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に大きく貢献できる - ソールバルグ首相はこのように示そうとしています。ノルウェーは、世界の政治指導者に呼びかけ、汚染のない健全な海洋を保全する取り組みへの幅広い支持を得たいと考えています。2020年に発表予定のパネルの最終報告書はそのための重要な節目となります。
パネルへの参加呼びかけに対して、これまでに参加の意思を表明したのは以下の国々です。オーストラリア、チリ、フィジー、ガーナ、ギニア、インドネシア、ジャマイカ、日本、メキシコ、ナミビア、パラオ、ポルトガル。
国際海洋会議Our Ocean Conference 2019の開催
ノルウェーは2019年の国際海洋会議「Our Ocean Conference」の主催国です。この会議は、2014年、米国ケリー国務長官(当時)の主導でワシントンDCにおいて第1回が開催されました。回を重ねるうちに参加国の数は大幅に増加し、政府、学界、NGO、経済界など幅広い層から参加者を集めています。ノルウェーは毎年開催されるこの会議に、発足当初から参加してきました。2019年秋にオスロで開催される会議には各国から外務大臣を迎える予定です。
2日間にわたる会議では、海洋保護区、気候変動、持続可能な漁業、海洋ごみ、ブルーエコノミー、海洋安全保障などを中心に議論が行われます。現在、参加国に呼びかけ準備が進められています。2018年の会議は10月29、30日にインドネシアのバリで開催されました。
海洋ごみ対策の支援プログラム
毎年およそ800万トンのプラスチックが海洋に投棄され、深刻な環境汚染を引き起こしています。最終的に海に行きつくプラスチックの80%は、陸上の汚染源から排出されていると推定されます。
2017年12月の第3回国連環境総会において、加盟国はノルウェーが提唱した海洋プラスチックごみに関する「ゼロ・ビジョン」に合意しました。この決議と関連して、海洋ごみ及びマイクロプラスチック対策において国際協力を強化する方法を検討するための専門家グループが設置されました。ノルウェーは、2019年3月に開催される次回の国連環境総会において、この専門家グループから勧告書を提出してもらうべく取り組んでいます。
ノルウェー政府は2018年の海洋ごみ対策プログラムに2億8,000万ノルウェークローネを確保しています。このプログラムは、海洋ごみの問題が最も深刻な世界各地で廃棄物処理を改善し、海洋へ流れ込む廃棄物の増加を食い止めることを目指すものです。また、ノルウェーは海洋ごみ・マイクロプラスチック対策に取り組むため、世界銀行にマルチドナー基金を設立しようと積極的に働きかけてきました。
既存の開発・人道支援プログラム「開発のための魚類(Fish for Development)」や「開発のための石油(Oil for Development)」も重要な役割を果たします。ノルウェーは名立たる海洋国家です。海を守るためのノルウェーの国際的な取り組みは、世界中の人々の暮らしを支えるための健全な海洋環境の保全を進め、持続可能な海洋経済の構築を促進することを目指しています。

毎日、数十万人のノルウェー人が海洋産業に従事しています。海洋産業全体を合わせるとノルウェーの輸出収入の約70%を占めています。
現在、ノルウェーは世界の主要海洋国のひとつです。ノルウェーの海岸線の長さは世界有数で、管理海域の面積は陸地の5倍以上に及びます。多くの国民が石油・天然ガス、海運業、水産業などの海洋産業に従事しています。
ノルウェーの海洋産業の経済規模は大きく、輸出収入の70%近くを占めています。
- ノルウェーは世界最大の石油・天然ガスの生産国のひとつです
- ノルウェーは世界で最も進んだ海運大国のひとつです
- ノルウェーは世界第2位の水産物輸出国です
- ノルウェーのエネルギー供給産業も世界有数です
- ノルウェーは責任ある海洋資源管理と海洋研究で世界の最先端にあります
私たちの祖先は代々ノルウェー沿岸の豊かな漁業資源を糧に暮らしてきました。そのための道具や装備は改良が続けられ、海についての知識も深まっていきました。ベルゲンやトロンハイムは、ロフォーテン諸島の豊かな漁場を頼りに、ハンザ同盟の時代から交易の中心都市として発展し続けてきました。ノルウェー北部と西部、南西部のあいだを小型の横帆船で往来する沿岸貿易が数世紀にわたって続くなかで、新しい産業が台頭し、さまざまな機会が生み出されました。技術の開発とともに船舶も進歩し、19世紀には、世界に誇る帆船を建造するまでに発展を遂げたノルウェーは、世界第3位の海運国となりました。
帆船から蒸気船に、最終的には最先端を行く現代の海事産業へと進化するなかで、石油産業におけるノルウェーの壮大な冒険が始まりました。現在、海洋石油開発技術は沖合養殖や海洋再生エネルギーの発展に欠かせない基盤となり、新たな時代への技術の架け橋となっています。
ノルウェーを近代的なハイテク国家へと築き上げた技術変化の波は、伝統的な海洋産業から起こったものです。これを現代の世代が受け継ぎ、ノルウェーは海洋分野で常にトップとなることを目指しています。
未来を予見することは困難ながら、確かなことはこの先の将来にわたり海が繁栄と成長をもたらす源であり続けるということです。OECDの推定では、世界経済に占める海洋関連産業の割合は2030年までに2倍になると予想されていますが、気候変動や漁業資源の乱獲、汚染などで、世界の海は危機的な状況に置かれています。海洋経済が今後も発展し続けるためには、海洋資源の持続可能な利用を成し遂げ、地球全体の視点から海を考えることが必要です。ノルウェーの海洋産業は既に競争力ある強い産業ですが、ノルウェーは引き続きこの分野に投資するとともに、有望な新規分野での研究や技術革新、技術開発を進めていきます。

ノルウェー政府は海洋産業の支援に全力で取り組んでいます。今後、海洋産業は収益性の高い持続可能な雇用を提供すると期待されています。
現在、21万人余が石油、水産、海運のいずれかの海事産業に従事し、年間5千億ノルウェークローネ近くの富が海洋産業から生み出されています。
「海がひらく未来」
未来の雇用が海にあります。ノルウェー政府が海事産業の研究と技術革新にこれまで拠出してきた金額は数十億クローネにのぼります。
「海はノルウェーが今後力を注ぐべき最も重要な分野のひとつです。ノルウェーの海岸線は世界でも非常に長く、管理海域の面積は陸地の6倍以上にのぼります。ノルウェーにとって海はいつの時代も大切なものでした。この先も変わらず雇用をもたらし経済成長を支えてれる大切な存在です」とイーサクセン貿易・産業大臣は述べています。
海洋政策に関わるノルウェー政府機関
ノルウェー政府は新たな海洋戦略の策定や、外交・開発戦略における海洋の位置づけを明確化した初の白書を作成するなど、海洋産業に全力を注いでいます。ノルウェーの取り組みは、新養殖魚種や地球環境に優しい技術、デジタル・ソリューションの開発から、国際外交、プラスチック廃棄物や温室効果ガスの対策まで多岐にわたります。こうした取り組みには、石油・エネルギー省、気候・環境省、外務省、教育・研究省、運輸・通信省など数多くの省が関与し、全体の統括を貿易・産業・漁業省が担っています。
ノルウェー政府による海洋産業の支援取り組み
ノルウェーは、リサーチ・カウンシルやイノベーション・ノルウェーのプログラムを通して、海洋産業の研究と技術革新のために毎年数十億クローネを拠出しています。
[継続実施している取り組み]
・海底の石油資源や鉱床について調査を行っています。
・新しい魚種の開発など、養殖技術の可能性を継続的に調査し、収獲を実現させています。
・海底の測量調査実施・地図の作成、海洋環境のモニタリングを行っています。
・環境負荷が少ない船舶の利用を進めています。
[最近の取り組み実績]
・海洋のプラスチックごみや廃棄物に取り組む開発援助プログラムを設置しました。
・海洋経済に関する国際パネル(持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル)を設立しました。
・漁業犯罪と闘うための取り組みを強化しました。
[今後の目標・取り組み]
・ノルウェーは、国際協力を拡大する推進力となることを目指しています。
・オキアミについて理解を深めるために南極調査を実施します。
・海洋産業が新規技術やソリューションなど、新しいアイデアを検証するための手段を、リサーチ・カウンシルを通じて提供しています。
・沿岸水域の生態系について知識を深め、水産養殖業のさらなる発展を目指します。
・地球環境・気候が海洋の生態系に及ぼす影響について、さらに知識を深めたいと考えています。